「ここから出ていって」「あなた、除名!」-議会の仕組みと用語2

はじめに

本記事は、あまり馴染みのない自治体の議会の仕組みと用語について解説する記事です。第2回目は、審議の公平性を保つため利害関係議員を審議に参加させない「除斥制度」、自治体議員の除名を含む「懲罰制度」、委員会制度と議会の調査権に基づく「100条委員会」について、取り上げます。

ここから出ていって―除斥制度

議員が取締役を務める会社が提出した補助金交付の請願をその議員が加わり審議したら、審議自体が公平に行われるでしょうか。
親名義の不動産を市が購入する契約案件をその息子である議員が加わり審議したら購入価格や契約内容が適正だと市民は思うでしょうか。

議会は住民の代表者の集まりですから、その審議には公正さが求められます。そこで法律には、「除斥(じょせき)」という制度が設けられています。

自治体の議会の議長や議員は、自分や一定の範囲の親族の一身上の事件や従事する業務に直接の利害関係のある事件については、議事に参与できない、つまり、審議と表決に加われないというのがその内容です。
一定の範囲の親族とは、父母、祖父母、配偶者、子、孫、兄弟姉妹をいいます。
ただし、議会の同意があれば、会議に出席し、発言することはできます(地方自治法第117条)。

実際の手続としては、その案件が議題になった時点で、議長又は委員長が除斥対象である旨を告げ、除斥対象の議員が議場や委員会の行われている部屋から外へ出るなどの段取りをあらかじめ打ち合わせをしておきます。

なお、地方自治法の規定は、議会本会議での審議を想定したものですが、標準的な委員会条例では、委員会についてこれと同様の規定を定めています。よって、本会議、委員会に関わらず除斥制度が存在することとなります。委員会制度については、この後の項目をご覧ください。

あなた、除名!―自治体議員の懲罰制度

最近、国会議員の懲罰が話題になっています。
自治体の議会にも議員の懲罰の制度があります。

その種類は、
1.公開の議場における戒告
2.公開の議場における陳謝
3.一定期間の出席停止
4.除名
です(地方自治法第135条第1項)。
これは、国会法第124条で定められている国会議員に対する懲罰と同じです。

懲罰を科すことができるのは、
1.議員が地方自治法、自治体の会議規則、委員会条例に違反した場合(地方自治法第134条第1項)

2.議員が、議会の会議又は委員会で侮辱を受け、その侮辱した議員の処分を議会に訴えた場合(同法第133条)

3.正当な理由がなくて議会の招集に応じない場合や正当な理由がなくて会議に欠席した場合に、議長が招状を発してもなお理由がなく出席しない場合(同法第137条)
この出席しない場合については、国会法の規定とほぼ同様の定めとなっています。

上記の場合で、処分の申出や懲罰の発議がされた場合に、通常は懲罰委員会が設けられます。標準的な議会の会議規則の例では、懲罰については、委員会の付託を省略して議決することはできないとされているからです。議員の身分にかかわることなので、慎重審議を行うということでしょう。

懲罰委員会が設けられた場合には、その審議の結果と経過を本会議に報告します。その後に、採決となりますが、除名については、在職議員の3分の2以上が出席し、その4分の3以上の者の同意を必要とします(地方自治法第135条第3項)。
これは、長の不信任議決と同じです。選挙において選ばれた者の身分をはく奪する場合には、特別多数の議決が必要だということです。(長の不信任については、別のブログ『「不信任」と「議会の解散」―首長と議会の対立の極致』をご覧ください)

本気を出したら100条委員会-委員会制度

国会の予算委員会はよくテレビ中継されます。国会の審議の場は、本会議と委員会ですが、自治体の議会も同じ構成をとっています。
自治体の議会の委員会は、大きく3つに分かれています。常任委員会議会運営委員会特別委員会です(地方自治法第109条)。

常任委員会は、文字通り、常設の委員会で、多くの自治体では、執行部の部の単位に分かれて設けられています。例えば、総務委員会、農林水産委員会などです。そこで、その委員会の部門に属する事務内容の質疑をしたり、付託された議案や請願を審査したりします。議員は一般的にどれか一つの常任委員会の委員になります。

議会運営委員会は、会期の調整や本会議の日程などの議会の運営に関する事項や会議規則や委員会条例、議長の諮問事項を審査します。

特別委員会は、議会の議決により付議された事件を審査します。

本会議の質問については、多くの議会で、事前の質問事項の通告制度をとっていますが、委員会については、必ずしもそうではありません。
執行部側からの出席者も、本会議が通常、局長や部長クラス以上であるのに対し、より実務を行っている課長クラスがメインになることが多いので、一定の細かい質問にも対応ができるからです。
課長クラスは、議会の本番は常任委員会です。

特別委員会は、議会が必要と考えた事件について設置するものですから、審議内容は様々です。予算について審議する予算委員会や決算について審査する決算審査特別委員会などは、「特別」委員会といっても、毎年設けられます。そのほか、案件が複数の委員会にわたるなどの理由で、臨時に設けられる委員会があります。

これに対し、「100条委員会」と呼ばれるものがあります。
自治体の議会の権限は、いくつかありますが、もっとも一般的なものは、執行部の提案する条例案や予算案や契約案件などについて、議決すること(議決権)です。執行部の提案は、議会での議決を経ないと効力を発しません。よって、これがもっとも重要な権限です。
議決権に比べ、普段は意識されることが少ないですが、自治体の議会にも国会の調査権と同じような調査権があります。

自治体の事務(いくつか例外があります)について、広く議会が調査する必要があると考えた案件について、調査のための委員会を立ち上げ調査します(この委員会のことを、根拠条文の地方自治法第100条から、通称「100条委員会」といいます)。

日常的に、議員は執行部に対して、情報提供の依頼や質問をしますが、100条委員会が、これらとちがうところは、執行部に限らず、広く関係者に対して、出頭、証言、記録の提出を求め、正当な理由がなく拒否した場合には禁固刑等の処罰規定があることです。虚偽の陳述をした場合にも処罰規定があります

たまに、自治体で100条委員会が設けられたことがマスコミにより報道されることがあります。そこには、必ずその自治体を揺るがす事件があります。


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