「国債」「地方債」-国と自治体の借金の制度

はじめに

本記事は、国や自治体の借金である「国債」や「地方債」について説明するものです。
「国債」や「地方債」は国や自治体の資金の調達手段として発行されるものですが、金融商品として、投資家などのほか自治体の資金運用の手段としても用いられます。
本記事は、それら両方の面から「国債」と「地方債」を説明します。

まず押さえよう

国も自治体も、借金(国債や地方債を発行すること)は、建設事業等の財源とするほかは、原則禁止です。ただし、現状では、例外を認める法律により広く行われています。

自治体が借金をする場合、公的資金を利用する以外に、銀行から直接借入をする方法と「市場公募地方債」を発行し、住民にそれを買ってもらい資金調達する方法があります。

自治体の財政運営として、地方債は基本的に施設の耐用年数の範囲内で発行するとともに、発行した場合、償還に備えて、各年度の積み立てをしておく必要があります。

自治体で資金運用する場合、国債や地方債は運用対象として認められている場合が多いですが、既発債により運用する場合には、損失を生じないよう注意する必要があります。

国も地方も借金は原則禁止

「国債」は国の借金、「地方債」は自治体の借金です。
国については、財政法という法律で、自治体については、地方財政法という法律で、借金を財源とすることは、建設事業等に充てる場合を除いて、原則禁止されています。

しかし、現在、国は建設事業等以外の財源としても多額の国債を発行していますが、このために国会で特例の法律をつくっています。
また、地方についても、地方交付税の振り替えの借金などが法律でできるようになっています。

これらの詳しい説明については、別のブログ『「建設地方債」と「赤字地方債」のちがいとは』をご覧ください。

借金の仕方

我々が住宅ローンや教育ローンを銀行などから借りる場合には、「金銭消費貸借契約書」などという書面を締結して借りることになります。
自治体も公的な資金を借り入れるほかに、同じように銀行と契約をして借り入れる場合があります。
その場合には銀行が「地方債を引き受ける」という表現をし、その地方債のことを「縁故債」とか「銀行等引受債」といいます。

「国債」や金融商品としての「地方債」は、銀行が引き受けるのではなく、「債券」というかたちで一般の国民(住民)向けに売り出されるものです。この地方債を「市場公募(地方)債」といいます。〇〇県が発行する市場公募債の場合、名称を第△回〇〇県債などといいます。

国債は、満期が3年や5年、10年ものに加えて最近は、20年、30年、40年といった超長期にわたるものまであります。地方債もいろいろなバリエーションのものが出てきています。
自治体の借金全体のことを「地方債」といったり、債券として自治体が発行するものを「地方債」といったりしますので、多少わかりにくいかもしれません。

地方債の種類

地方債には、全国の複数の自治体が共同で発行する①「共同発行市場公募地方債」と単独の自治体が発行するが、購入対象は制限しない全国型の②「市場公募地方債」(個別債)とその地域の住民に対象をしぼる③「住民参加型市場公募地方債(ミニ市場公募債)」があります。

この①と②③のちがいは、①は複数の自治体の共同発行となるので、その元利償還金の返済は複数自治体の連帯債務となります。ですので、担保力が②③より強いということになります。

しかし、自治体は民間企業と異なり経営不振により破綻して債務不履行となることがないといってもいいので、担保力に着目して①を②③より優先する意味はそれほどないのではないかと思います。
自治体が借金をする場合には原則として、国(総務省)又は都道府県と協議が必要とされており、また、国は年度単位で「地方債計画」という全国の自治体の借金の計画を作成していることも地方債の安全性の大きな根拠となっています。

ただし、個別の団体が発行する場合、自治体により若干の利率の高低はあります。商品ですから、円滑に売却できるよう、国債や他の自治体の地方債の利率の動向などを勘案して、発行の条件を決めるからです。

③のミニ市場公募債は、住民に行政に関心をもらってもらう意味も込めて、整備する施設の名称を愛称として付けるなどして、比較的小規模に発行するものです。ただし、近年の低金利政策により、発行数は減少しているようです。

「新規発行債」と「借換債」

「新規発行債」と「借換債」という区分の仕方があります。
新しく橋を架けるのでその事業費に充てるために国債や地方債を発行する。これが「新規発行債」です。
「借換債」というのは、例えば、ある県で10年前に橋を架けて10年物県債を発行したとします。そうすると、今年それを返さなければならないが、全額返せないので、借り換えをする。そのために発行するものです。

それって、ずっと繰り返していけば、永遠に借り続けられるんじゃないのと思ったあなた。橋や建築物などには耐用年数があります。長くても耐用年数の範囲内で返済を行うこととされています。
また、例えば耐用年数60年だったら、10年経って借り換える場合は、10年前に発行した額の6分の5を借り換えるのがルールです。

減債基金

具体的に、耐用年数60年の施設を建設するために、10年物で600億円の県債を発行したとしましょう。
1年目から9年目までは利息の支払いだけでいいですが、10年目には、その600億円を全額返さなければなりません。
そのうち6分の5の500億円は借換債で対応するとしても、100億円のキャッシュが要ります。

そのぐらいの額、一年で返せるという自治体もあるかもしれませんが、通常は、10年後にいくらの額を返済しなければならないということがわかっているので、その10分の1の金額を各年度の予算から積み立てておく対応をします。

自治体には「基金」という制度があります。家計でいうところの「預金」「貯金」に当たります。その一つに「減債基金」というのがあり、そこに積み立てます。そうすれば、10年目の頭には90億円たまっているわけですから、その年の10億円と合わせて、それほど負担なしに償還できます。

たまに、こうした積み立てをおろそかにしたり、積み立てた額をつかってしまう自治体がありますが、財政運営の手法として決して推奨しません。

「新発債」と「既発債」

「新規発行債(新発債)」「既発債」という区分があります。
これは新しく発行される国債や地方債か、すでに発行されていて債券市場で取引が行われている国債や地方債かという区分です。前者が「新発債」、後者が「既発債」と呼ばれます。

「新発債」は、売出時に売出価格と利率(利回り)が決まっています。額面1万円のものを1万円で売り出すのが一般的ですから、「新発債」を満期まで持っていれば、元利合計額が確定します。そして必ず元金以上の額となります。

一方で、「既発債」は、その日その日で値段が違います。例えば額面が1万円の国債でも1万千円というような値段が付くことがあります。それを購入し、満期まで持っていたら、1万円しか返ってこないから損をすることになります。
ただし、利率がよくて、何回かもらえる利息の額の合計が千円を超えていれば損はしないことになります。
「既発債」を購入する場合にはこうしたことに十分に注意する必要があります。

これは個人で購入する場合もそうですが、自治体では基金や減価償却費の積立金を運用することがあります。
運用に当たって、通常はルールを定めており、元本保証のない株式や外貨預金等は禁止されているはずですが、国債・地方債は許容されている例があります。その場合でも、満期まで保有していた場合に元利金トータルで損失を生じるような国債等の取得は避ける運用をとっている団体は多いと思われます。

金融機関のディーラーは変動する国債等の価格を見て、購入・売却を繰り返す運用をするのが業務ですが、自治体担当者は、公金を運用するので、こうした損失を生じるおそれのある運用を避けるように留意しなければなりません。

なお、本稿の説明は、本ブログが全体として自治体の業務を主な対象としていることから、国債より地方債を中心として書いております。
国債の仕組みもだいたいは同じですが、細かい所では異なっていることをご了解ください。

根拠法令等

本記事の根拠法令等は次の通りです。
解説は分かりやすくするために、主な事項だけを説明したり、法令にはない用語を用いたりしている場合があります。
正確に知りたい場合には、条文や文献等を確認してください。

財政法第4条(公債の禁止)

地方財政法第5条(地方債の制限)
同法第5条の2(地方債の償還年限-対象施設の耐用年数の範囲内)
同法第5条の3(地方債の協議)
同法第5条の7(地方債証券の共同発行)

地方債(総務省ホーム→政策→地方行財政→地方財政制度)(2023年4月10日参照)

地方債制度の概要(財務省ホーム→財務省の政策→財政投融資→財政投融資制度の概要→地方公共団体向け財政融資)(2023年4月10日参照)

国債については財務省ホームページ(財務省ホーム→国債)や証券会社のホームページにも参考となる記載が多くあります。

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