はじめに
市町村は経営不振によって倒産、消滅することはありません。もちろん、市役所を破壊してもその市はなくなりません。市町村がなくなるのは、現行制度上はほかの市町村と合併したときだけです。
本記事は、市町村の合併について解説する記事です。
まず押さえよう
市町村の合併というのは、二つ以上の市町村が一つの市町村になることです。
これまで、明治時代と昭和の時代に大きな合併があり、最近では平成の大合併により、市町村数がそれまでの約半分(約1,700)となりました。
合併には新設合併と編入合併があり、前者の場合、合併市町村のすべてが消滅し、新しい市町村が誕生します。後者の場合は、編入される市町村が消滅します。
合併の効果として、「専門職員の配置など住民サービス提供の充実強化」、「少子高齢化への対応」などが挙げられ、問題点としては、「周辺部旧市町村の活力の喪失」「住民の声が届きにくくなっている」などが挙げられています。
市町村の合併とは
市町村の合併とは、二つ以上の市町村が一つの市町村になることをいいます。
都道府県の合併についても、法律に定められていますが、現行制度上例がありません。
一方、市町村の合併については、これまで数多く実施されています。
お住いの市町村も合併したことがあるかもしれません。
市町村数は、明治時代半ばには約71,000でしたが、市制町村制という制度を機に約16,000に減りました(明治の大合併)。
戦後、中学校の設置が市町村の事務となったことで、合併が進められ、昭和30年代半ばには3,500程度に減り(昭和の大合併)、平成10年代からの平成の大合併で現在約1,700となっています。
平成の大合併
平成10年代に「平成の大合併」が行われました。その目的は何でしょうか。
平成16年制定の合併特例法には、「地方分権の進展並びに経済社会生活圏の広域化及び少子高齢化等の経済社会情勢の変化に対応した市町村の行政体制の整備及び確立」のためと記されています。
平成12年の地方分権一括法や介護保険法の施行により、今まで以上に市町村がしっかりした事務処理体制を整える必要があったことは確かです。
ただ、この法律の記載内容も抽象的であり、当時の状況からしても、明治や昭和の大合併に比べ、いまひとつ目的がはっきりしない感がありました。
こうした案件は、まさしく「政治主導」の問題で、下から役人が積み上げてできるものではありません。同時に、政治主導の問題では、完璧な論理的な説明を求めるのも無理があるのかもしれません。
平成の大合併の進め方
合併については、あくまでも各市町村の自主性を尊重するのが建前でした。その上で、都道府県は市町村の合併のパターンなどを示すこととされました。
しかしながら、平成16年度には、地方交付税が大幅に減らされ(交付税ショック)、実際にはこれが合併を促進する大きな要因となりました。
国の合併市町村に対するメインの財政支援策としては、地方交付税(以下、「交付税」といいます。)について、合併をしても、合併しないときを下回らないように算定することと、合併特例債という借金を認めることです。
交付税について、合併しないときを下回らないように算定するというのは、交付税はその自治体の支出に対して、収入(税など)が足りない分を補てんするものです。
不足している団体同士が合併すれば、不足額が増え、交付税が増えるかというとそうではありません。団体が大きくなれば、経費の総額は増えても、住民一人当たりの経費は減ります。効率化するということです。交付税の基準財政需要額の算定方法においても効率化を前提にしています。
一方、収入は単純に足し算で増えます。
そうすると、合併すれば、しないときに比べ、もらう交付税の額は減るので、合併が進みません。ですので、経過措置として、合併した団体について、もとのとおり個々の団体別で計算した額の合計額と、合併後の一団体として計算した額を比べて、多い方の額を交付することにしたのです。
業務の効率化をきちんと図れば、その差分を新たな住民福祉の向上施策に充てられるわけです。これを合併算定替(がっぺいさんていがえ)といいます。
なお、交付税制度については、別のブログ『わかる「交付税」1―もらう交付税と交付する交付税』、『わかる「交付税」2―基準財政需要額をかんたんに』、『わかる「交付税」3―交付する交付税』で解説していますので、ご参照ください。
また、合併特例債というのは、合併するに当たって必要な施設を建設するための借金(地方債)です。
どうして、借金を認めることが支援になるかというと、地方債のなかには、その元利償還金(返済する元金と利息)の一部を交付税措置するものがあります。合併特例債は、建設費のほとんどの部分を賄うことができ、かつ、その7割が交付税措置されます。
交付税措置されるというのは、基準財政需要額に算入されるということです。その分交付税が増えます。ということは、元利償還金の一部を国が交付税という形で補助するということです。
このように、全体として交付税額を減らし、交付税の合併算定の特例や合併特例債を用いて合併が進められたことを、「アメとムチを用いた」と表現されたこともありました。
各市町村は事前研究を重ねた後に、合併協議会という組織をつくり、合併後の姿を協議していきました。協議の途中で、意見が合わず解散又は離脱する例もありました。
合併の二つの方法
市町村が合併する仕方として、新設合併と編入合併の2種類があります。
新設合併というのは、例えばA町とB町が合併して新しいC市をつくる場合です。イメージとしては対等な合併です。新しい自治体の名称や市役所(役場)の位置などを一から話し合って決めていきます。
この場合、合併するすべての市町村が消滅します=壊れます。そして新たに一つの市町村が誕生します。
一方で、編入合併というのは、吸収合併のイメージに近いものです。大きな市が周辺の町村を合併するような場合に多く見られます。
市の名称や市役所の位置などはすべて合併する方のものが継続しますし、市の条例や規則なども基本的には同様です。こちらの方法をとった場合には、吸収される市町村は消滅します=壊れます。
どちらの方法によるかは関係市町村次第です。
平成の大合併の評価
最初の方に、全国の市町村数は、約1,700まで減少したと書きましたが、都道府県別に、合併の動きの前と後でどの程度市町村数の減少があったかを総務省の資料によって見てみます。
平成11年3月31日(平成10年度末)と平成26年4月5日の市町村数を比較したものです。
全体では、3,232団体から1,718団体へと、1,514団体、46.8%の減となっています。
減少率の高い団体としては、①長崎県(79団体→21団体、73.4%減)、②広島県(86団体→23団体、73.3%減)、③新潟県(112団体→30団体、73.2%減)などとなっています。
一方、減少率の低い団体としては、①大阪府(44団体→43団体、2.3%減)、②東京都(40団体→39団体、2.5%減)、③神奈川県(37団体→33団体、10.8%減)などとなっています。
都道府県ごとに見ると、だいぶ違いがあることがわかります。
合併が進むか進まないかについては、市町村の財政状況によります。財政状況が豊かであれば、合併の必要性をさほど感じず、あまりに厳しいと周辺市町村が合併を嫌がるといったことがあります。
また、地理的な要因や、知事、市町村長の合併に対する考え方も影響します。
さらに、先ほど述べたように、合併の協議の中で、合併自体より、市役所の位置や新市の名称などについて折り合いがつかず、合併に至らないケースもあります。
こうした様々な要因が重なって、このような結果になっていると思います。
総務省は平成22年に平成の合併についての調査を公表しました。
そこでは、合併の効果として、「専門職員の配置など住民サービス提供の充実強化」、「少子高齢化への対応」「広域的なまちづくり」「適正な職員の配置や公共施設の統廃合など行財政の効率化」が挙げられています。
一方で、「周辺部旧市町村の活力の喪失」「住民の声が届きにくくなっている」「住民サービスの低下」などが問題点として挙げられています。
合併の方向自体は誤りではないと考えますが、こうした問題点は現在でもなくなったわけではなく、行政として解消に向け努力していく必要があります。
根拠法令等
本記事の根拠法令等は次の通りです。
解説は分かりやすくするために、主な事項だけを説明したり、法令にはない用語を用いたりしている場合があります。
正確に知りたい場合には、条文や文献等を確認してください。
地方自治法第7条(市町村の配置分合)
市町村の合併の特例に関する法律(何度か改正されています)
広域行政・市町村合併(総務省トップ→政策→地方行財政→地方自治制度)
前記の都道府県別の合併前後の市町村数については、広域行政・市町村合併→市町村合併資料集の「市町村合併の状況」の項の「都道府県別合併実績」参照。
『平成の合併について』(平成22年3月、総務省)(前記の総務省の公表した、合併についての効果と問題点が記された資料です。「平成の合併について」でネット検索してください)
(ネット検索資料は、2023年4月13日参照のもの)
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