はじめに
本記事は、お役所の仕事の中でつかわれる様々な「お願い」のことばについて解説する記事です。
国の施策への提案・要望
国(各省庁)と自治体、特に都道府県との関係は深い。こういうと当たり前のように思われるかもしれませんが、自治体の仕事のほとんどは法律に基づいて行われています。その法律を実質的につくっているのは、各省庁です。法律に基づく運用の多くを決めているのも各省庁です。
地方分権の流れの中で、そうした運用について、自治体の独自の判断を許す方向へと向かっていますが、実務に携わる側、住民(国民)に近い位置にいる自治体としては、制度をつくる側の国(各省庁)に対して、いろいろこうしてほしい、ああしてほしいということはあります。
それとりまとめたのが、表題の「国の施策への提案・要望」というもので、多くの都道府県はこうした活動を行っていると思います。
具体的には、都道府県庁の企画部門が庁内に国に要望してほしいことを訊きます。そうすると、こういう制度をつくってほしいとか、助成を拡大してほしいとか、いろいろな要望事項が上がってきます。
それを整理して、一覧表の形にし、マスコミに発表して、知事や部課長らが各省庁を回り、要望活動を行います。
要望活動の実際
各省庁に来訪の連絡をすると、しかるべき人が会ってくれることもあります。
このしかるべき人というのも県から知事が来るのか部長が来るのか課長が来るのかで、そして、案件によって国が県に迷惑や苦労を掛けているのかそうでないかによってちがいます。
そのあたりは、前例や当日の国の業務の予定や案件のその時点での重要性や知事と政権幹部の関係などいろいろなことを勘案して決めているのだろうと思います。
地元選出国会議員のところも回ります。衆議院と参議院の議員会館が国会の近くにあります。そこの何階のどこに〇〇議員の事務所があるという資料を片手に、もう片手には要望書の入った封筒をもって訪ねます。
コツとしては、上の階からまわることです。下から行くと階段を上ることになりますから。
ほとんどの場合、議員本人は不在で、秘書や事務の人が対応してくれます。一、二分ぐらい要望の趣旨を話して、また次の事務所に行くというのを繰り返します。
県庁の職員の行っている仕事の一端を紹介しました。
ここでは、いろいろな「お願い」の仕方やことばについて、説明します。
要望
こうしてほしいという希望を申し出ることです。自治体が国に対して申し出る場合に、かつては「陳情」という言葉がよくつかわれました。「陳情」というのは、目上の人に訴えるという意味で「要望」に比べると上下関係のニュアンスが強いので、最近は「要望」、さらに先ほどの例のように、「提案」と合わせてつかわれます。
制度をつくってほしい。制度や助成を拡充してほしい。あるいは権限を県に移してほしい。内容は様々です。
このほか、自治体に所在する企業、職種別の団体などの連合組織や議会会派が執行部に対して、予算に関して事業の新設や充実を求め、又、経済情勢の悪化などに関する対策を求める「要望書」を出す例は多いです。
要請
「要望」よりも切実度が強いニュアンスがあります。
例えば、災害が発生して、救助のために自衛隊の派遣をお願いする場合は、「要請」を使います。これは自衛隊法で、「要請」すると定められているからですが、緊急性が伝わりますね。
新型コロナウイルスについて定めている「新型インフルエンザウイルス等特別対策措置法」でも、たくさんの「要請」が定められています。知事の住民に対する感染を防止するための協力要請、知事の物資所有者に対する売渡要請などです。
こうした法律に根拠がない場合にも、緊急の場合には「要請」します。コロナの関係での法律に基づかない営業時間短縮要請などがそれです。
依頼
これは何らかの具体的な仕事を頼んだり、具体的な行動をお願いしたりするときに用います。イメージとしては事務的で、ある程度その依頼をする根拠らしきものがあります。
例えば、国が都道府県に調査を頼むとか、都道府県が市町村に報告をお願いするというようなときの文書には、具体的なお願いの後に(依頼)と書いてあります。「令和□年度〇〇統計調査の実施について(依頼)」というようにです。
申請
住民(国民)が国や自治体に対して一定のことをしてほしいと求める場合や自治体が国に対して求める場合などに使います。民民の関係(お客様と会社の関係)のときの「申し込み」や「注文」に当たるものです。
この「申請」に対しては、法律や規則やそのほかのきまりで、国や自治体が申請の内容を実現させるかどうかについて判断する権限をもちます。
例えば、補助金交付「申請」は、法令や補助金交付要綱によって、「申請」した者に対して、審査をして、要件に合致した場合に、補助金の「交付」しますし、許可の「申請」に対しても、やはり内容を審査の上、許可または不許可の決定をします。
民民の関係でも、単なる申し込みでなく、審査を必要とする場合には、これと同様に「申請」することがあります。例えば、私立大学への奨学金申請のようなものです。
請願・陳情
「請願」ということばはふだんあまりつかいませんが、憲法第16条に定められている、損害の救済、公務員の罷免、法律などの制定等について意見を述べ、希望を表明することです。
具体的には、自治体の執行部に対しては請願法の定めにより、自治体の議会に対しては地方自治法第124条の規定により、議員の紹介を得たうえですることになります。
細かい手続については、議会が定める議会会議規則に定められていることが通常です。
請願を受けた官公署は誠実に処理しなければならないとされています(請願法第5条)。
「陳情」は「要望」の個所でも述べましたが、目下の者が目上の者にお願いしたり、国民が官公署にお願いするときに用いますが、自治体の議会に対してされた場合には、請願に準じた扱いをされる旨標準の会議規則に定められています。この場合、請願と陳情の差は紹介議員の有無です。
出願
特許などを認定・登録してもらう場合とか大学や高校など教育機関の入学試験や資格試験の申し込みを行うときにつかいますね。ほかではあまり聞いたことがありません。
ただ、「願」というのは、「退職願」のようにつかうことはあります。「申請」が法令に則って、要件に該当すれば、期待したことがなされるのに対し、ニュアンスとして、ある程度、願われる側に裁量が許されるような場合やへりくだってお願いする場合につかわれます。
受験の「出願」は、そもそも試験を受ける機会を与えていただきたいというヘリくだりの気持ちを表すということなのでしょう。
請求
これは「お願い」ではなく、法律など何らかの根拠に基づいて、相手方に一定の行為をすることを求めるものです。取引で出される「請求書」は典型的なものですね。
ほかにも、「直接請求」は有権者が条例の制定・改廃や公務員の解職などを求めるものですし、議長や議員が長に対して臨時会の招集を「請求」したり、行政のしたことに不服がある場合には審査「請求」をしたりと、様々につかわれます。
取引での請求書を除くと、請求する側に、なされるべきことがなされていないとか、不満があるときの手段としてなんらかの行為を求めるという感があります(個人の感想です)。
要求
「要求」は「請求」と似ていますが、求める内容が「請求」よりも少し漠然としているというイメージがあります。
例えば、国家公務員は人事院に対し勤務条件に関する行政措置が行われるよう「要求」をすることができます。
また、国は自治体が行う自治事務に対して「是正の要求」をすることができます。この場合の是正措置の内容は、自治体側の裁量であるとされています。
これについては、別のブログ『自治体の行う「法定受託事務」「自治事務」とは』をご覧ください。
根拠法令等
本記事の根拠法令等は次の通りです。
解説は分かりやすくするために、主な事項だけを説明したり、法令にはない用語を用いたりしている場合があります。
正確に知りたい場合には、条文や文献等を確認してください。
憲法第16条(請願権)
請願法
地方自治法第124条(請願の提出)
同法第125条(採択請願の処置)
標準都道府県議会会議規則第9章(請願)
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