「財政健全化法」ってなに?-わかるお役所用語解説19

はじめに

日本では、自治体が破産することやそれにより消滅することはありません。財政的に非常に厳しい状態になることはありますが、国等の関与のもとに「再生」する仕組みになっています。

その仕組みを定めたのが「地方公共団体の財政の健全化に関する法律」(以下,「財政健全化法」といいます)です。

本稿は、この法律の制定の経緯や内容について解説するものです。

まず押さえよう

自治体が財政的に苦しいというのは、赤字になるか又は借金が多いということです。

財政健全化法では、自治体とその関連団体も含めて、この2項目について数値を算出させ、それが一定基準以上の団体に、自主的努力により、また、国等の関与により是正させる仕組みを定めています。

この法律の制定の経緯

「財政健全化法」は、2007(平成19)年に公布されました。
それまでは、こうした制度はなかったのかというと、そうではありません。

「地方財政再建促進特別措置法」(以下、「再建法」といいます)という法律があり、これに基づき、一定の数値の算出義務があり、それが基準に該当した場合に「財政再建団体」となるという制度がありました。
しかしながら、北海道夕張市がとった財政運営手法に対して、この法律では十分ではなく、その結果、同市は多大な債務を抱えて「財政再建団体」となりました。

その反省の結果、「財政健全化法」が生まれました。
具体的には、「再建法」では一般会計が中心であった財政状況の把握から、その範囲を公社や第三セクターといった関連団体まで広げました。
また、単年度の収支における債務の比率の把握だけであったものを、債務の残高も含めた指標による数値を把握することとしました。
さらに財政再建団体に陥る手前で自主的な改善が図られる仕組みを導入しました。

これらのことを以下で説明します。

なお、夕張市の財政手法については、別のブログ『出納整理期間をつかった不適正処理―自治体経理の基礎3』にまとめてありますので、併せてご覧ください。

財政健全化法に基づく4つの数値=健全化判断比率

財政健全化法では、自治体の財政状況について、以下の「実質赤字比率」「連結実質赤字比率」「実質公債費比率」「将来負担比率」により、その健全性の度合いを見ることとしています。この4つをまとめて「健全化判断比率」といいます。

実質赤字比率

実質赤字比率とは、「一般会計等」の「実質赤字額」の「標準財政規模」に対する割合です。

式で表すと、 一般会計等の実質赤字額÷標準財政規模 となります。

ここで「一般会計等」とは一般会計に一定の特別会計を加えたもので、いわゆる「普通会計」のイメージですが、その範囲については、財政健全化法の施行令や施行規則で定まっていますので、詳しく知りたい方はそれらの規定を参照ください。

なお、「一般会計」と「普通会計」のちがいについては、別のブログ『「一般会計・普通会計」「公共(的)団体」―お役所ことばの似て非なるもの2』をご覧ください。

次に「実質赤字額」とは、繰上充用額、支払繰延額、事業繰越額の3つを足したものです。

式で表すと、 実質赤字額=繰上充用額+(支払繰延額+事業繰越額) となります。

「繰上充用」とは、自治体の会計制度では、ある年度の支出はその年度の収入をもって充てるのが原則ですが、実際の収入が予算より減れば、払いきれない場合が生じます。その場合に、その年度の翌年度の収入をもって支払いに充てることをいいます。
どうしてそのようなことができるかというと、自治体の会計には出納整理期間があり、その年度の支払いは翌年度の5月まででき、また、5月までには翌年度の収入が入ってくるからです。この4月及び5月に入った収入を支払いに充てます。

「支払繰延」とは、本来はその年度に支払うべきものを、実質上の収入不足のため翌年度に繰り延べて支払うことです。これは、前記の「繰上充用」とは異なり、制度として認められたものではありません。これを行うと、形式的には歳出額が少なくなり、繰上充用処理を行わなくて済むので、赤字隠しとして利用されるものです。
自治法上の会計原則(会計年度独立の原則)に反するのみならず、事業者に対して一定期間内の代金等の支払いを定めた「政府契約の支払い遅延防止等に関する法律」にも違反する場合があります。

「事業繰越」とは、実質上の収入不足のため、事業自体を繰り越すことです。予算額を減額補正し、又は、不用処理し、翌年度の歳出予算に計上します。これも制度上のものではありません。
詳細については、総務省のホームページの質疑応答や地方財政状況調査表作成要領」(総務省自治財政局財務調査課)をご覧ください。

「標準財政規模」とは、よく財政関係の指標の算定に用いられる概念で、普通交付税(臨時財政対策債含む)に標準税収入と地方譲与税等を加えたものです。
詳細については、別のブログ『「実質公債費比率」ってなに?-わかるお役所用語解説3』の【詳しい説明―総務省の説明の解説】の項をご覧ください。

連結実質赤字比率

「連結」とある通り、自治体のすべての会計を合算して赤字かどうかを見るものです。水道事業や病院事業などの公営企業会計や国民健康保険などの会計もすべて合算します。

式で表すと、 連結実質赤字額÷標準財政規模 となります。

ここでいう「連結実質赤字額」とは、「一般会計と公営企業以外の特別会計の赤字額」と「公営企業の資金不足額(資金不足比率の項で説明します)」の合計額が「一般会計と公営企業以外の特別会計の黒字額」と「公営企業の資金剰余額」の合計額を上回った場合に生じます。

実質公債費比率

実質公債費比率は、地方公共団体の借入金(地方債)の返済額(公債費)の大きさを、その地方公共団体の財政規模に対する割合で表したものです。
財政健全化法の指標として用いる場合には、3年間の平均値をとります。

算入される具体的な公債費の範囲や計算の仕方については、別のブログ『「実質公債費比率」ってなに?-わかるお役所用語解説3』に解説していますので、ご参照ください。

将来負担比率

将来負担比率は、地方公共団体の借入金(地方債)など現在抱えている負債の大きさを、その地方公共団体の財政規模に対する割合で表したものです。

この「将来負担額」は、実質公債費比率の算定に用いた元利償還金や準元利償還金のもととなる地方債等の残高だけではなく、第三セクターに対する債務、職員の退職手当に対する一般会計負担見込額や連結実質赤字額なども含んだものになっています。

その一方で、将来負担に充てられる基金残高や特定財源、地方交付税措置額は控除することとされています。
前記の3比率がフローの指標であるのに対し、この将来負担比率はストックの指標といわれます。

式で表すと、

(将来負担額)-(充当可能基金額+特定財源見込額+地方債現在高等に係る基準財政需要額算入見込額) ←分子 ÷

(標準財政規模)-(元利償還金・準元利償還金に係る基準財政需要額算入額) ←分母
となります。

分子の具体的な算入項目については、財政健全化法第2条第4号や総務省のホームページをご参照ください。

公営企業を対象とした資金不足比率

資金不足比率は、病院や下水道などの公営企業の資金不足を、公営企業の事業規模である料金収入の規模と比較して指標化し、経営状態の悪化の度合いを示すものです。

式で表すと、 資金の不足額÷事業の規模 となります。

「資金の不足額」とは、

地方公営企業法適用企業の場合  (流動負債+建設改良費等以外の経費の財源に充てるために起こした地方債の現在高-流動資産)-解消可能資金不足額

地方公営企業法非適用企業の場合  (歳出額+建設改良費等以外の経費の財源に充てるために起こした地方債の現在高-歳入額)-解消可能資金不足額
となります。

この「解消可能資金不足額」とは、地下鉄事業や下水道事業のように初期投資が大きい事業は、多額の借入をすることが多いため、その元利償還金の影響で資金不足を生じます。そうした事業について、一定の要件のもと、一定額(解消可能資金不足額)を控除することによって、資金不足ではないという扱いをするものです。

早期健全化基準と財政健全化計画、財政再生基準と財政再生計画

4つの数値からなる健全化判断基準には、その値により「早期健全化基準」と「財政再生基準」が設けられています。
早期健全化基準に該当した自治体は、議会の議決を得て「財政健全化計画」を、財政再生基準に該当した自治体は、議会の議決を得て「財政再生計画」を定めます。
これらの計画を定めた団体を、それぞれ、「財政健全化団体」「財政再生団体」といいます。

「財政健全化計画」は、市町村の場合、公表するとともに、都道府県を通じて国まで報告する必要があります。毎年の実施状況も同じです。この段階では、自治体の自主的な改善努力を促すという趣旨のため、国等の関与については、「財政の早期健全化が著しく困難である」ときに勧告を行うにとどめられています。

「財政再生計画」についても、手続は財政健全化計画と基本的には同じですが、この計画については、総務大臣に協議し、「同意を求めることができる」とされています。任意のようですが、この同意がないと、災害復旧以外の事業について、地方債を発行することも、財政再生団体に特有の地方債を発行することもできないので、実際には義務といっていいでしょう。
国は財政再生団体の財政運営が計画に適合しない場合やその他財政の再生が困難と認められる場合には、予算の変更等の必要な措置を講ずるよう勧告できます。

早期健全化基準と財政再生基準の具体的な数値は以下の通りです。この数値のいずれか一つにでも該当すると財政健全化計画又は財政再生計画をつくらなければなりません。

なお、基準の数値は市町村のみ示しております。

比率の名称早期健全化基準財政再生基準
実質赤字比率11.25%~15%20%
連結実質赤字比率16.25%~20%30%
実質公債費比率25%35%
将来負担比率350%なし

 ※早期健全化基準の実質赤字比率及び連結実質赤字比率については、市町村の標準財政規模などにより数値が異なります。

公営企業の経営健全化基準と経営健全化計画

公営企業については、資金不足比率20%が「経営健全化基準」であり、これ以上となったときには、「経営健全化計画」をつくります。
手続については、「財政健全化計画」に似たものとなっています。

監査委員の関与等

財政健全化法では、長の作成する各種比率や計画などについて、監査委員の関与を定めています。

具体的には、健全化判断比率や資金不足比率については、監査委員の審査に付し、その意見をつけて議会に報告します。

また、財政健全化計画、財政再生計画又は経営健全化計画を定める場合には、改善が必要な事項について、監査委員の監査を要求し、併せて、外部監査を求めることとされています。

根拠法令等

本記事の根拠法令等は次の通りです。
解説は分かりやすくするために、主な事項だけを説明したり、法令にはない用語を用いたりしている場合があります。
正確に知りたい場合には、条文や文献等を確認してください。

地方公共団体の財政の健全化に関する法律
同法施行令
同法施行規則

「地方公共団体の財政の健全化」(総務省トップ > 政策 > 地方行財政 > 地方財政制度)

「地方公共団体財政健全化法に関するQ&A」(上記サイトから検索)

「地方財政状況調査表作成要領」(総務省自治財政局財務調査課)

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