はじめに
「節」(せつ)は自治体の主に歳出予算を支出の種別や性質により区分するものです。すべての支出は、定められた節のいずれかに該当することとなります。
本稿は、「節」について、どのようなものかをわかりやすく解説する記事です。
款・項・目と節
予算(特に歳出予算)は、款・項・目・節に区分されるという言い方をしますが、款・項・目は予算の使い道の区分け、あるいは、目的別の区分けを、款(大項目)、項(款の中の中項目)、目(項の中の小項目)と、次第に細かくしながら表したものです。
一方、「節」は、「目」の経費の内訳であると同時に、支出の種別又は性質による区分けであり、多くの目の中に同じ節があります。
代表的な「節」の内容
「節」の名称と内容については、地方自治法施行規則第15条とその別記で定まっています。
「節」の名称は、この規則のとおり定めなければならず、自治体の裁量が許されている款項目とは異なっています。
詳細については、規則を参照していただくこととして、ここではその中から代表的な「節」をいくつか紹介します。
〈第1節報酬、第2節給料、第3節職員手当等、第4節共済費〉
これらは人の働きに対してお金を支払う区分(人件費)ですが、報酬は、議員や行政委員会の委員など非常勤の者に対して支払われるものです。
給料は、常勤の特別職又は一般職の職員に対して支払う本俸で、職員手当等は、本俸以外の金銭(期末勤勉手当、扶養手当や通勤手当など)です。
共済費は、年金や社会保険料の事業主負担分です。
<第8節旅費、第9節交際費、第10節需用費、第11節役務費、第12節委託料、第13節使用料及び賃借料〉
これらは、業務を行う上で必要な経費で、消費的性質(支出が形として残らない)をもつもの(物件費)です。
旅費は、出張のための電車賃やバス代などです。
交際費は、長などが行政執行のため対外的に交際するための経費です。交際費については、長や議長の交際費について、ホームページで使途を公開している団体が多いので、何に使ったかはそれを見ればわかります。
需用費は、かなり幅が広く、コピー用紙やペンなどの消耗品の費用、暖房燃料、会議の弁当などの飲食代(食糧費)、印刷製本費や光熱水費、ちょっとした修繕の費用などです。これらは、規則別記の需用費の細節として定められています。
役務費は切手代や電話料金などの通信運搬費や保険料などです。
委託料は、試験、研究、調査などを専門家に対して仕事を頼む費用です。
使用料及び賃借料は、土地、建物、部屋や会議室の借上料や駐車料金などです。
<第14節工事請負費、第16節公有財産購入費>
工事請負費は、道路、橋、公園、学校などの建設など社会資本の整備のための費用、いわゆる工事を発注する経費です。
公有財産購入費は、自治体で使用する土地や建物などを購入する費用です。
これらは、消費的経費(例えば物件費)に対して、投資的経費又は普通建設事業費と呼ばれる経費区分の主要部分を占めるものです。
<第18節負担金、補助及び交付金〉
この節には3つの区分の支出が整理されています。これらは自治体の支出の原因によって異なっています。
負担金は、国や他の自治体に対して法令又は契約による義務として支出する金銭です。
補助金は、特定の事業や研究などを行う者に対して、自治体が法令の規定又は公益上の必要性から支出する金銭です。
交付金は、他の自治体や組合等に対して、法令等により自治体の事務を委託している場合に、その事務処理の報償として支出する金銭です。また、県が市町村に交付する各種交付金(地方消費税交付金等)もこれに該当します。
なお、ここでいう「組合」とは、自治体がお金を出し合って事業を行う「一部事務組合」等のことです。詳しくは、別のブログ『地味に大切な仕事をしていますー自治体の「組合」』をご覧ください。
〈第19節扶助費〉
生活保護法に基づく生活扶助、教育扶助等の経費や身体障害者福祉法、老人福祉法等いわゆる社会保障制度の一環として対象者に給付する費用です。
〈第22節償還金、利子及び割引料〉
主に自治体が借りた地方債を償還するための費用です。
地方債制度について、詳しくは、別のブログ『「国債」「地方債」-国と自治体の借金の制度』『「建設地方債」と「赤字地方債」のちがいとは』をご覧ください。
〈第27節繰出金〉
他の会計へ繰り出す(他の会計の収入となる)費用です。特別会計は原則独立採算ですが、一定の理由がある場合には、一般会計から特別会計へ一定額を繰り出します。
詳しくは、別のブログ『「公営企業繰出金」「繰出基準」ってなに?-わかるお役所用語解説18』をご覧ください。
需用費についての2つのこと
前記のように第10節需用費は非常に幅広い使途があります。
ここでは、その使用に当たり、2点注意すべき点を紹介します。
1点目は、飲食代(食糧費)についてです。
食糧費については、職員同士の飲食に使われるなど不適正な使用になりがちなので、ほかの需用費より厳しい取扱いをしている自治体もあります。運用は自治体により異なりますが、例えば、会議開催の場合の弁当なども、出すことの可否について上司や出納部門への確認が必要です。
もう1点は、消耗品と備品のちがいについてです。消耗品は需用費で購入できますが、備品は第17節備品購入費で購入することとなります。
備品と消耗品の区別は、多くの自治体では、財務規則や物品管理規則などで定まっています。詳細はそれらの定めによりますが、備品は長期間使用できるもの、消耗品は使用によって消耗してしまうという性質があるものという一般的な区分をしたうえで、一定の取得価格以下のものや記念品等相手方に渡してしまうものなどを消耗品と区分する例などがあります。
需用費で物品を購入する場合には注意が必要です。
予算の流用と不適正処理
予算の流用とは、ある目的のための経費を抑制し、その財源を他の支出に充てることをいいます。
款や項の間の流用には法の制限がありますが、節間流用については、広く長の裁量にゆだねられています。しかし、それを各部局の自由に任せると財務規律の観点から問題が生じるおそれがあるので、多くの自治体では、財務規則等で財政部門への流用申請といった手続きを踏ませ、一定の制限をかけています。
どのような場合に流用が認められ、どのような場合に認められないかは、自治体により異なりますが、財務規律をあまりに強調しすぎると、かえって各部局が流用申請を回避するような不適正な会計処理を行うおそれも出てくるので、留意する必要があります。
具体的にどのような処理が不適正な処理かについては、別のブログ『会計年度をゆがめる処理―自治体経理の基礎2』をご覧ください。
節の活用―経費の性質別分類
自治体の経費を節に着目し、その経済的性質を基準に分類することがあります。これを、款項目を基準にして分類する「目的別分類」に対して、「性質別分類」といいます。
自治体が予算を公表する際に、こうした分類の資料を示すことがありますし、決算においては、総務省が全自治体を共通の基準で分析する「地方財政状況調査」(通称、決算統計)を実施しています。
分類の仕方はいろいろありますが、例えば、自治体の財政状況の自由度を見る場合には、経費を「義務的経費」、「投資的経費」、「その他の経費」の3つに区分する方法があります。
義務的経費とは、人件費、扶助費と公債費をいいます。先ほどの代表的な節の内容の解説を再度ご覧になってください。
人件費は、報酬、給料、職員手当等や共済費などをいいます。
扶助費とは、社会保障制度の一環として対象者に給付する費用(第19節)です。
公債費とは、自治体の借金を返す費用(第22節償還金、利子及び割引料)です。
これらの経費は、法律や条例で支給額が決まっていたり、金融機関との契約により支出額が決まっていたりして、自治体が財政状況を理由に容易に減額できない経費です。
一方、投資的経費とは、工事請負費や公有財産購入費のように自治体がある程度業務量や工期を計画できる費用です。
こうしたことから、経費総額(≒歳入総額)のうち、義務的経費の占める割合が高ければ、投資的経費に回せる余裕が小さくなり、財政の自由度があまりなくなります。逆に義務的経費の割合がそれほど高くなければ、新規施設の建築、既存施設の耐震化や修繕といった事業がやりやすくなるといえます。このような状態を「財政の弾力性が高い」といったりします。
性質別分類には、他に、経常的経費と臨時的経費に分ける方法、移転的経費と実質的経費に分ける方法などいくつかあります。興味のある方は、財政分析の専門書をご参照ください。
なお、本ブログでも、『予算の中身を知りたい人のための「目的別分類と性質別分類」』『「財政力指数」ってなに?-わかるお役所用語解説1』『「経常収支比率」ってなに?-わかるお役所用語解説2』『「実質公債費比率」ってなに?-わかるお役所用語解説3』で、こうした財政分析に触れています。
根拠法令等
本記事の根拠法令等は次の通りです。
解説は分かりやすくするために、主な事項だけを説明したり、法令にはない用語を用いたりしている場合があります。
正確に知りたい場合には、条文や文献等を確認してください。
地方自治法施行規則第15条及び別記(歳出予算に係る節の区分)
地方自治法第220条第2項(流用の禁止)
地方財政の分析(総務省ホームページ)総務省トップ > 政策 > 地方行財政
地方財政調査関係資料(総務省ホームページ)総務省トップ > 政策 > 統計情報 (本ページの「各地方公共団体の財政状況について」の「決算カード」をクリックすれば、各自治体ごとの財政状況の資料がご覧になれます。
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